大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成2年(行ケ)276号 判決 1992年12月25日

ドイツ連邦共和国、5100 アーヘン、ポメロッテルベーグ 18

原告

アンドレアス パベル

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

同弁理士

佐藤一雄

黒瀬雅志

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

石川伸一

長澤正夫

奥村寿一

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第2088号事件について、平成2年6月14日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和53年3月23日、名称を「音楽等の聴取装置を備えたベルト」とする発明につき、1977年3月24日イタリア国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願した(昭和53年特願第32475号)ところ、昭和58年3月16日に拒絶査定を受けたので、同年7月19日、上記特許出願を、名称を「携帯用ステレオ音楽等聴取装置」とする考案(以下「本願考案」という。)についての実用新案登録出願に変更した(昭和58年実用新案登録願第111089号)が、昭和63年10月4日に拒絶査定を受けたので、平成元年2月13日、これに対する不服の審判を請求した。

特許庁は、これを平成1年審判第2088号事件として審理したうえ、平成2年6月14日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月22日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

別紙審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写し記載のとおり、実願昭50-13809号(実開昭51-95322号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例」という。)を引用し、本願考案は、引用例記載の考案と周知事項とに基づき当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、実用新案登録を受けることができない、と判断した。

第3  原告主張の審決取消事由

審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例の記載内容の認定は認める。本願考案と引用例考案との一致点・相違点の認定については、引用例考案の装置を音楽等聴取装置とする認定を争い、その余は認める。また、相違点<1>についての判断は認める。相違点<2>及び<3>についての判断は争う。ただし、番組源再生装置とケーブルを介して接続され(番組源再生装置から物理的に隔離して位置づけられ)かつ小型軽量化されたヘッドホンが周知である(以下「周知事項<1>」という。)ことは認める。

審決は、相違点<2>及び<3>の判断において、以下に述べるとおり、周知事項でないものを周知事項であると誤って認定し、引用例考案が音声聴取装置であり音楽等聴取装置でないにもかかわらず、これを音楽等聴取装置であると誤って認定し、さらに、本願考案の着想の困難性に対する判断を誤り、その結果、誤った結論に達したものであるから、取り消されなければならない。

1  取消事由1(周知事項でないものを周知事項とした誤り)

審決は、「聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的音楽等聴取装置において、番組源再生装置が同時に互いに異なるステレオ番組出力信号を再生させ、信号増幅手段がヘッドホンのためにステレオ信号を増幅し、かつ、唯一の音響再生手段が信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りステレオ音響を再生するステレオヘッドホン手段であるものは周知」であるとして、実公昭47-4008号公報(乙第3号証)及び実公昭46-10576号公報(乙第4号証)を挙げる。

しかし、ある技術が周知であるといえるためには、当該技術がその技術分野において一般的に知られている技術であること、換言すれば、例えば、これに関し相当多数の公知文献が存在し、又は、業界に知れ渡り、若しくは、業界においてよく用いられていることを要し、単に当該技術を記載した公報が存在するだけでは足りない(無体財産権関係民事・行政裁判例集第7巻第2号第265頁参照)。ところが、審決は、上記技術を記載した公報が存在することだけを理由にこれを周知としたものであり、審決のこの認定は誤りである。

2  取消事由2(引用例の考案を音楽等聴取装置とした誤り)

審決は、引用例考案が音楽等聴取装置であると認定した。しかし、引用例考案は、音声聴取装置ではあっても、音楽等聴取装置ではなく、審決の上記認定は誤りである。審決は、このように引用例に関する認定を誤り、その結果、本願考案と引用例考案との相違点であるものを一致点とし、ひいては、本願考案の進歩性についての判断を誤った。

引用例考案が音楽等聴取装置でない理由は次のとおりである。

引用例考案は、<1>録音部分Aとスピーカー部分Bが分割でき、<2>録音部分Aのみで録音した後、録音部分Aとスピーカー部分Bとを結合して録音を再生でき、<3>同じくイヤホンを録音部分Aに接続することにより録音を再生することもできること、を特徴としている。音質、録音再生機能から見て、録音を再生する手段としてはスピーカー部分Bの方がイヤホンよりも優れていることは明白であるから、聴取者は、スピーカー部分Bが使用できるときは、当然のことながら、イヤホンを用いずスピーカー部分Bを用いるであろうことは、容易に推測できる。そして、このスピーカー部分Bは、それ自体超小型カセットテープレコーダーの一部として小型であり、しかも、イヤホンに置き換えられることが予定されていることから見て、単に音声の録音再生手段として予定されているにすぎず、音楽を再生聴取するためのものではない。すなわち、装置がこのようなものである以上、約170ヘルツから約5000ヘルツまで(5オクターブ)録音再生すればこと足りるものとして設計されていることは明らかであり、ダイナミックレンジも30デシベルとこれまた狭く、歪みは概ね10%あり、ワウフラッターも0.5ないし1%と大きく、これでは、会話の録音再生には十分であるものの、音楽の再生録音には全く不十分である。要するに、引用例考案は音響特性を犠牲にして小型化を実現したものであるから、そこには、音楽聴取装置としてこれを使用するとの発想は全く含まれていない。

3  取消事由3(本願考案の着想の困難性を看過した誤り)

審決は、1で述べたとおり、「聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的音楽等聴取装置において、番組源再生装置が同時に互いに異なるステレオ番組出力信号を再生させ、信号増幅手段がヘッドホンのためにステレオ信号を増幅し、かつ、唯一の音響再生手段が信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りステレオ音響を再生するステレオヘッドホン手段であるものは周知」であると認定し、さらに、番組源再生装置とケーブルを介して接続された、小型軽量のヘッドホーンが周知であることを認定した後、これらの事項を前提に、「上記引用例記載の録音部分A内の番組源再生装置、信号増幅手段をステレオ信号を再生増幅出力するものとし、イヤホンの代わりに、上記録音部分Aにケーブルを介して接続されるステレオヘッドホンを用いて本願考案のように構成することに何ら困難性を有するものとは認められない。」と判断した。

しかし、審決のこの判断は、本願考案の個々の構成要素をそれ自体として見れば、いずれも、公知ないし周知であるか、又は、公知ないし周知の技術から極めて容易に制作できるものであるかのいずれかであること、すなわち、技術的な側面だけから見れば、本願考案を実施に移すことに格別の困難はないことに目を奪われて、本願考案に着想することの困難性を看過した誤ったものである。すなわち、本願考案は、それがいったん考案として生まれてしまった後であれば、技術的には、公知又は周知の個々の技術から、これらを組み合わせることにより容易に実現できるものであるが、以下に述べるとおり、これら個々の技術を組み合わせて本願考案のような構成のものとするとの着想自体には非常な意外性があり、このような着想に至ることは決して容易ではなかったのである。

本願考案は、装置の小型化と再生音質の良さという二つの要請を同時に実現することができる点にその特色がある。ところが、本願前は、これらの要請は、それぞれだけに着目すれば、、いずれもその実現が目指されてきてはいたものの、互いに両立しえないものと考えられ、装置の小型化を目指すときには音質は犠牲にせざるをえず、音質の向上を目指すときは大型化は避けられないと認識されていた。より具体的にいえば、録音されたステレオ番組の再生用ハイファイシステムはラウドスピーカーで再生するように設計される必要があると一般的に思われていたし、再生音の質は、装置全体の大きさで決まると一般的に信じられていた。このような状況であったから、本願考案のようにハイファイステレオシステムを小型化していわゆるポケットサイズにすることは、思いもよらないことであったのである。

本願考案の着想が容易でなかったことは、長年の間、多くの人がより良いバッテリー作動のステレオ再生装置を望み、また、それができるかぎり小型であることを望んでいたこと、上記のとおり、本願考案は、それがいったん考案として生まれてしまった後であれば、技術的には、公知又は周知の個々の技術から、これらを組み合わせることにより容易に実現できるものであること、それにもかかわらず、原告が出願し公開されるまでは、だれも本願考案を実施して商品化することをしていないことからも、容易に理解できるところである。

第4  被告の反論

審決の認定、判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

原告が取消事由1において問題にしている技術は、本願の優先権主張日前、その技術分野において既に一般的に知られていた技術である。審決が実公昭47-4008号公報(乙第3証)及び実公昭46-10576号公報(乙第4証)を挙げたのは、上記技術を記載した公報が存在していることだけを根拠にこれを周知とするためではなく、そのような技術を用いたものの例を示すためであるにすぎない。そして、このように当該技術分野において一般的に知られている技術を周知技術というのであるから、審決のこの扱いには何の問題もない。

2  取消事由2について

スピーカーの大小は、音質に係わりを有するとはいえ、これによる音質の差は程度の差にすぎず、小さいスピーカーであるからといってこれで音楽を聞くことができないわけではない。したがって、引用例考案においても、音源を会話にするか音楽にするかは任意であるから、これを音楽等聴取装置とした審決の認定に誤りはない。

3  取消事由3について

引用例考案が音楽等聴取装置であることは2で述べたとおりであり、また、およそ、音響装置である以上音響特性を全く犠牲にすることはありえないから、引用例考案においても、音響特性は考慮の対象となる事項であり、そこには、音質の向上が技術的課題として当然に存在する。

他方、小型化と再生音質の向上という二つの課題を同時に達成するために、音響聴取装置の番組源再生装置、信号増幅手段、唯一の音響再生手段をそれぞれステレオ用とし、かつ、その唯一の音響再生手段をヘッドホンとすることは、前述のとおり周知の技術的手段にすぎない。

そうすれば、引用例考案の装置の音質を向上させようと考え、そのために、上記周知の技術的手段を用いて本願考案に至ることに格別の困難は存在しない。このことは、本願の優先権主張日前、引用例考案のような携帯用の録音再生装置にあっても、ステレオを意図したものが、既に広く知られていたことからも、明らかである。

第5  証拠

本件記録の各書証目録の記載を引用する(書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

ある技術を記載した公報が単に存在しているだけでは当該技術を周知技術ということはできず、周知技術であると評価するためには、これが当該技術分野において一般的に知られている必要があることは、原告主張のとおりである。しかし、乙第3、第4号証によれば、昭和47年2月12日に公告された実公昭47-4008号公報(乙第3号証)及び昭和46年4月14日に公告された実公昭46-10576号公報(乙第4号証)のいずれにも、審決にいう、「聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的音楽等聴取装置において、番組源再生装置が同時に互いに異なるステレオ番組出力信号を再生させ、信号増幅手段がヘッドホンのためにステレオ信号を増幅し、かつ、唯一の音響再生手段が信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りステレオ音響を再生するステレオヘッドホン手段であるもの」に該当するものが記載されていることが認められ、これらの公報は、いずれも本願の優先権主張日である1977年3月23日の5、6年前に公告されたものであって、その間不特定、多数の者が知りうる状態に置かれていたこと、後述のとおり、携帯用録音再生装置についても、ステレオを意図したものは本願の優先権主張日前既に広く知られていたことをも加えて判断すれば、その記載内容である上記技術が本願の優先権主張日前既に周知となっていたと優に認めることができる(以下、上記技術を「周知事項<2>」という。)。

上記技術が周知性を有しないとする原告の主張は採用できない。

2  取消事由2について

原告は、引用例考案におけるスピーカーが超小型であること、及び、そこではスピーカーの代わりにイヤホンが用いられることも予定されていることを根拠に、引用例考案は音響特性(音質)を犠牲にして小型化を達成したものにすぎず、音楽聴取をその目的としていないと主張する。

確かに、スピーカーが超小型である場合、あるいは、スピーカーの代わりにイヤホンが用いられる場合には、他の条件が同一であれば、そうでない場合に比べて、音質が犠牲になることは避けられないであろう。しかし、スピーカーが超小型になっても、あるいは、スピーカーの代わりにイヤホンが用いられても、音楽を聞くことができないわけではなく、スピーカーの大小による、あるいは、イヤホンを用いるか否かによる音質の違いは、これを客観的な側面から見れば、結局は程度の差にすぎないのであり、かつ、音楽を聞きたいと考える者がどの程度の音質を許容限度と考えるかは、その者の好みとその者が置かれた状況とによって様々であり、世上一般に超小型のスピーカーあるいはイヤホンによって音楽を聴取する者もあることは、当裁判所に顕著な事実であるから、引用例考案が音楽の聴取装置として使用されることも十分ありうると認めて差し支えない。したがって、引用例の考案を「音楽等聴取装置」とした審決の認定に誤りはない。

3  取消事由3について

引用例考案が音を聞くための装置である以上、そこにおいて音響特質(音質)を全く犠牲にするということはもともとありえず、いわんや、引用例考案が音楽を聴取するためにも使用されうる装置(音楽等聴取装置)であることは2で述べたとおりであるから、音質の向上という技術課題が当然のこととしてそこにも存在することは明らかであり、そうであれば、引用例考案の音質を向上させるとの着想も極めて容易に生じうるといわなければならない。そして、引用例考案の音質を向上させるとの着想さえあれば、これと審決のいう周知事項<1>、<2>とから本願考案に至ることが極めて容易であることは原告もあえて争わないところであり、かつ、審決のいう周知事項<1>が周知の事項であることは当事者間に争いがなく、周知事項<2>が周知の技術と認められることは前述のとおりであるから、結局、本願考案は引用例とこれら周知事項とから極めて容易に考案することができたものというべきである。甲第7ないし第9号証はこの認定に影響を与えるものではなく、他にこれを左右するものはない。したがって、進歩性についての審決の判断に誤りはない。

原告は、この点につき、装置の小型化と再生音質の良さという二つの要請は、互いに両立しえないものと考えられ、装置の小型化を目指すときには音質は犠牲にせざるをえず、音質の向上を目指すときは大型化は避けられないと認識されていた旨主張し、これに基づき、超小型カセットテープレコーダーである引用例考案の音質を向上させる着想自体が極めて困難であった旨主張する。

しかし、乙第6号証の1ないし4によれば、本願の優先権主張日前、携帯用録音再生装置にあってもステレオを意図したものは既に広く知られていたことが、乙第3、第4号証によれば、前述の各公報には音響再生装置をステレオヘッドホンとする携帯用ラジオ受信機が記載されていることが、それぞれ明らかであり、これらの事実は、一方で装置の小型化という要請を実現しつつも、他方でこれを前提として音質の向上を図るという着想が決して珍しいものではなかったことを物語っているのである。

原告の上記議論は、結局、物事の有するある側面だけを見て他の側面を無視するものというべきであり、採用できない。

また、原告は、本願考案の着想が困難であることの根拠として、本願の優先権主張日前に本願考案を商品化したものがなかったとの事実を挙げているが、ある考案の実施品が商品として成功するか否かは、種々の要素によって決まることであり、着想の容易な考案であるからといって、それが直ちに商品化されるというわけのものでないことは当裁判所に顕著な事実であるから、仮に、原告主張のとおり本願の優先権主張日前本願考案を商品化したものがなかったとしても、その事実が直ちに本願考案の着想の困難性に結びつくわけではない。また、本願の優先権主張日前本願考案を商品化したものがなかった理由がその着想の困難性以外にないとの事情を認めるに足りる証拠はない。

原告の主張は、採用できない。

4  結論

以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他、審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を、上告のための附加期間の付与につき同法158条2項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

平成1年審判第2088号

審決

ドイツ連邦共和国、5100 アーヘレ、ボメロッテルベーグ 18

請求人 アンドレアス バベル

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所内

代理人弁理士 佐藤一雄

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所内

代理人弁理士 前島旭

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所

代理人弁理士 大川晃

東京都千代田区丸の内3-2-3 協和特許法律事務所

代理人弁理士 黒瀬雅志

昭和58年実用新案登録願第111089号「携帯用ステレオ音楽等聴取装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和59年 5月21日出願公開、実開昭59-74773)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、1977年3月24日イタリア国にした出願に基づいて優先権を主張して昭和53年3月23日に出願された特願昭53-32475号を実用新案法第8条第1項の規定により昭和58年7月19日に実用新案登録出願に変更したものであって、その考案の要旨は、補正された明細書及び図面の記載よりみて、その実用新案登録請求の範囲第1項に記載されたとおりの、

「聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的ステレオ音楽等聴取装置であって、

a) 信号を記録した担体から同時に互いに異なるHiFiステレオ番組出力信号を再生させる小型化された番組源再生装置と;

b) 前記番組源再生装置からのHiFiステレオ番組出力信号を受け取り信号の増幅を行う小型化されたヘッドホン手段用ステレオ信号増幅手段と;

c) 前記番組源再生装置から物理的に隔離して位置付けられ、前記信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りHiFiステレオ音響を再生する、唯一のステレオ音響再生手段としての小型軽量化されたステレオヘッドホン手段と;

d) 前記番組源再生装置および前記信号増幅手段に電気的に接続されたバッテリを備えている電源手段と;

e) 前記番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段を、単一の携帯用ユニットの形態で保持し、聴取者の身体により担持される保持手段と;からなる聴取装置。」

にあるものと認める。

これに対して、当審における拒絶の理由で引用した実願昭50-13809号(実開昭51-95322号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、引用例という)には、録音部分Aとスピーカー部分Bとを分割できる超小型カセットテープレコーダーが記載され、また、録音部分Aのみをタバコやライター同様胸ポケット等に入れて携帯し、イヤホンを使って録音を再生して聞くことができる旨記載されている。したがって、上記引用例には、録音部分Aとイヤホンからなる超小型カセットテープレコーダが記載されているものと認められる。

そこで、本願考案(以下、「前者」という)と上記引用例記載のもの(以下、「後者」という)とを比較すると、後者の録音部分Aが、前者の「番組源再生装置」「信号増幅手段」「電源手段」を具備していることは自明であるから、両者は、聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的音楽等聴取装置であって、

a) 信号を記録した担体から番組出力信号を再生させる小型化された番組源再生装置と;

b) 前記番組源再生装置からの番組出力信号を受け取り信号の増幅を行う小型化された信号増幅手段と;

c) 前記信号増幅手段からの出力信号を受け取り音響を再生する、唯一の音響再生手段と;

d) 前記番組源再生装置および前記信号増幅手段に電気的に接続されたバッテリを備えている電源手段と;

からかる聴取装置

である点で一致し、

<1>前者が、番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段を、単一の携帯用ユニットの形態で保持し、聴取者の身体により担持される保持手段を有しているのに対し、後者のものにおいては録音部分Aの容器に番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段が収容され、該容器が聴取者のポケット等に入れられる点

<2>前者は、番組源再生装置が同時に互いに異なるHiFiステレオ信号を再生し、信号増幅手段がヘッドホンのためにHiFiステレオ信号を増幅するものであって、かつ、唯一の音響再生手段が信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りHiFi音響を再生するステレオヘッドホン手段であるのに対し、後者は、番組源再生装置、信号増幅手段がモノラル信号を再生増幅するものであり、かつ、唯一の音響再生手段がイヤホンである点

<3>前者のステレオヘッドホン手段は番組源再生装置から物理的に隔離して位置付けられ、かつ小型軽量化されたものであるのに対し、後者にはイヤホンが記載されているのみである点

で、一応相違しているものと認められる。

上記相違点について検討する。

相違点<1>について

本願の平成1年3月15日付全文補正明細書13頁12行目~14頁3行目に「上記実施例においては、番組源再生装置4と増幅器5とを分離して配置した例を示したが、これらをバッテリ7とともに単一の容器内に収容して配置することもできる。また、ステレオ音楽等聴取装置を構成する番組源再生装置4、増幅器5、電源装置(バッテリ7)および各種回路を、最新の技術で小型化し、てを小型の単一の容器内に収容して携帯するようにすることもできる。

また、ステレオ音楽等聴取装置を聴取者が担持する手段としてベルト1を用いた例を示したが、ベルトを用いず、装置の収容されている容器を直接聴取者のポケットなどに入れて携帯してもよい。」とある記載よりみて、本願考案の「番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段を、単一の携帯用ユニットで保持し、聴取者の身体により担持される保持手段」はベルトのみでなく、引用例記載のもののように、番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段が単一の容器に収容され、該容器が直接聴取者のポケットなどに入れられるものも含むものと解されるので、上記相違点<1>には実質的差異は認められない。

たとえ、本願考案の上記保持手段がベルトであると解されたとしても、番組源再生装置、信号増幅手段および電源手段を、単一の携帯用ユニットの形態で保持し、聴取者の身体により担持されるベルトは、例えば、実公昭42-7377号公報、実公昭38-18056号公報に記載されるように周知であり、上記引用例記載のテープレコーダの録音部分をベルトで保持することは当業者がきわめて容易に想到し得ることと認められる。

相違点<2><3>について

聴取者の個人的運動を妨害することなく、前記個人的聴取者に担持され操作される個人的音楽等聴取装置において、番組源再生装置が同時に互いに異なるステレオ番組出力信号を再生させ、信号増幅手段がヘッドホンのためにステレオ信号を増幅し、かつ、唯一の音響再生手段が信号増幅手段からのそれぞれ異なる出力信号をそれぞれ別々に受け取りステレオ音響を再生するステレオヘッドホン手段であるものは周知(例えば、実公昭47-4008号公報、実公昭46-10576号公報参照)であり、またヘッドホンとして番組源再生装置とケーブルを介して接続され(番組源再生装置から物理的に隔離して位置づけられ)かつ小型軽量化されたものも例示するまでもなく周知であるので、上記引用例記載の録音部分A内の番組源再生装置、信号増幅手段をステレオ信号を再生増幅出力するものとし、イヤホンの代わりた、上記録音部分Aにケーブルを介して接続されるステレオヘッドホンを用いて本願考案のように構成することに何ら困難性を有するものとは認められない。

なお、本願考案のステレオ信号を再生増幅する番組源再生装置、増幅手段、ヘッドホンに「HiFi」という限定がなされているが、上記周知例記載のものにおいても音源に対して高忠実に再生されるように考慮されているものと認められ、また、本願考案のものにおいてHiFiのために格別の技術手段を有するものとは認められないので、本願考案における「HiFiステレオ」とある限定事項は上記周知例における「ステレオ」と実質的に差異は認められない。

したがって、本願考案は、先の引用例記載のもの及び上記周知事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成2年6月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例